|
下忍になった。 「よし、これから実地で任務を行う。お前たちはもう忍びだ。忍びの基礎はアカデミーで習ってきているはずだ。やればできる。ではこれからこの一陣の後方にて援護をする。前戦では上忍同士の戦闘があるだろうが、後方まで上忍が来ることはあまりない。後方での俺たちの任務は中忍の残党狩りだ。では行くぞ。」 行くぞって、あーた、ちょっと気軽すぎやしませんか? 「カズト、なーにびびってんだよ。いつかはこんな戦場にだって来なくっちゃならなかったんだし、里にいた時は雑用ばっかの任務には飽き飽きしてたって言ってたじゃねえかよ。」 俺の言葉に、緊張してガチガチだったカズトがわかってるよっ、と息巻いた。 「俺だってなあ、戦場ではいっぱしの忍びとして活躍してやるんだよっ。」 「そうだなあ、でも下忍なんてそんなに活躍できないと思うから、先生の後で戦況を見るくらいでいいと思うぜ。」 「そ、そんなもんなのか?」 「だって俺たち、まだCランクの任務すらしてないんだぜ。先生だって中忍を殺して手柄を上げろ、なーんて言ってないだろ?」 「そういや、そうだな。」 「だからそんなびびんなよっ、いざとなったら俺が助けてやるし〜?」 にやにや笑うとカズトはむっとした。 「お前なんかに助けてもらわなくたって自分のことは自分でできるってんだよっ。」 カズトよりも二歳年上の俺は班の中ではリーダー的な存在だったが、カズトは勝ち気な性格からか、俺をライバル視しているようだ。心根が悪い奴ってわけじゃない。ま、普通は初めての戦場ではびびるもんだろう。 俺は笑みを浮かべると今度は班の中の紅一点であるアカネに声をかけた。 「アカネ、大丈夫か?」 アカネは俺の手をぎゅっとつかんでくる。その手は汗でじんわりとしている。俺は立ち止まって両手でアカネの手を覆った。 「アカネ、大丈夫だ。俺がきっと守ってやるよ。それにアカネはこの中で一番足が速いだろ?いざとなったら一人で離脱できる。」 だがアカネは首を横に振った。 「イルカたちを置いて逃げるなんてできないっ。」 「うん、そうだね、アカネは優しい。でも、俺たちがピンチになったら、すぐに仲間の元に行って助けを頼めるように走って逃げるんだ。ま、上忍の先生がいて中忍相手にそんな危機的状況もないと思うから、アカネも落ち着いて。それまでずっと手を握っているから。」 俺は片手を放して、利き腕ではない方の手でアカネの手をつないだ。 そして、戦況は最悪なことになった。 「先生、ここは離脱した方が、」 とりあえず意見を出してみた。が、 「いや、大丈夫だ。上忍だとて、みんなでやればさほど大変な相手ではない。敵は倒せる。」 いや、無理だって。いくら上忍ったって下忍連れで対戦したらこちらが不利になるのに決まっている。なんと言ったって戦場慣れしてないんだから。気合いでなんとかなるなら俺だって反対しないけどな、俺たちはここまでで精一杯だっつのっ。 「あの、先生、俺たち下忍なんですよ?もうちょっと下忍に見合った状況判断を下してくださいませんか?」 ちょっと反抗してみたが、その意見は見事に却下された。 「大丈夫だ。さ、休憩をあと10分で済ませて戦場へ戻るぞ。」 だめだ、この上忍師、戦場で気分がハイになってる。困ったなあ、隙を見て逃げるわけにもいかないし。 「カズト、アカネと共に近辺にいる他の班に救援を呼び掛けろっ。俺が足止めする。」 「ばっ、馬鹿かっ、相手は上忍だぞっ。お前、お前一人でどうにかなるわけっ、」 「だから早く助けを呼んで来いっつってんだよっ、だてにアカデミーに長くいたわけじゃあないんだよ。少しくらいなら足止めできる術だってある。さっさと行けっ。」 上忍師は死んでいたわけではなく、怪我しつつも敵と対峙しているが、あまり長くは持つまい。援護しなければ。 「アカネの足はお前よりも速い、だが敵の攻撃を防げるほどの能力はまだない。だからお前が守ってやるんだっ。いいなっ。」 言うと、カズトは真剣な目で頷いた。よし、カズトならできる。俺は信じてる。絶対に仲間を連れて戻ってきてくれる。 「健闘を祈る、イルカ。」 「お前もな、カズト。」 カズトとアカネは跳躍して去っていった。そしてそれを見送ってすぐに、上忍師が倒れた。 「お前、運が悪いなあ、まだ下忍だろうに。」 適忍にまで同情されてるよおいっ。 |